研究概要 |
本研究は境界層の乱流遷移を主題とし, 自由流中の乱れ, 音波, 表面粗さなどの外乱が境界層に受容される過程および受容された撹乱による亜臨界乱流遷移の機構を実験的に明らかにして乱流遷移の予測方の確立および遷移の制御方の開発に資することを目的としている. 本年度は研究の初年度であり, まず既設の風洞装置を境界層遷移を観察できるよう改変・改良した. 次に平板翼についてその前縁まわりの流れの受容性をスピーカにより音波を外乱として調べた. さらに, 数値シュミレーションを併用して, この外乱により前縁で剥離が生じはじめるときの外乱の強さを評価した. 以下にあれらた主な知見をまとめる. (1) 外乱(特に前縁を横切る芳香の速度成分)が強くなると, 亜臨界レイノルズ数であっても確かに 撹乱が受容され成長する. (2) その場合, 前縁で励起される撹乱は, T-S波タイプの粘性型活動とこれに重畳する小さなスケールの強い孤立渦である. これらは前縁近くで一気に増幅・成長した後下流に減衰するが, 孤立渦はすぐにヘアピン形に変形し, 著者らが平面ボアズイユ流れの乱流遷移で観察したように, 壁近くの流れに強い影響をもち, ヘアピン渦を次々に産みだすように見える. (3) 従って, 前縁で強い孤立渦が生まれることは亜臨界乱流遷移の一つの臨界条件と考えることができる. これは, 現象的には, 強い外乱の前縁を横切る方向の速度成分によって非定常な前縁剥離が生じる(剥離剪断層の形成)ことと密接に関係している. (4) 上述の数値シュミレーションと実験観察の双方から判断すると, この前縁剥離が生じ始めるときの撹乱の強さは主流速度の3〜4%の程度である.
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