前年度は、平板翼についてその前縁周りの受容性を音波を外乱として調べ、外乱が強いとき(平板に直角方向の速度成分により)非定常な前縁剥離が起き強い渦が生まれ、その渦が亜臨界乱流遷移を引き起こすことがわかった。本年度は、その結果を踏まえ、平板上境界層の亜臨界乱流遷移機構の解明を目ざし、前縁で励起される撹乱(渦)の発達を詳細に調べた。以下に得られた主な知見をまとめる。 1.前縁で生まれる渦は最初二次元であるが、前縁のわずかな歪み(本実験では薄いテープ片をスパン方向に等間隔に貼付)が原因となりすぐに三次元化し、ヘアピン状に変形する。その結果、流れる方向に軸をもつ縦渦構造(ヘアピン渦の脚部成いはそれが壁近傍に誘起する過度変動)が壁近くに発達し、壁近傍の強い剪断層を浮上させる。ヘアピン渦は流下とともに減衰するが、上記壁前断層から次々ヘアピン渦が生れてゆくと乱流境界層に遷移する。 2.前縁近くの境界層は極めて安定であり上記壁剪断層(或いは縦渦)の成長は外乱の強さに大きく依存する。励起される縦渦が弱い場合、R^*=300(R^*:排除厚に基づくレイノルズ数)以内で完全に粘性減衰し、ブラジウス流(層流境界層)にもどる。亜臨界領域(R^*<500)で乱流境界層が発達するのは、壁剪断層が(u変動の実効値で言えば)主流の10%程度の強さを下流まで維持するときであり、その時R^*=300付近から壁剪断層のヘアピン渦への成長が急速に進み、臨諏レイノルズ数(R^*=500)位置では乱流境界層が十分に発達する。 3.また、このような遷移機構は三次元撹乱特有のものであり境界層に強い二次元渦を導入しても壁剪断層の顕著な巻き上がりが生じないことが数値シミュレーションにより示された。
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