超精密切削加工においては、切取り厚さが極めて小さくなるが、このような状態では工作機械が理想的に働いているとしても、工具が実際に工作物を削り取る厚さである有効切取り厚さは工具刃先で測定される公称切取り厚さとは必ずしも一致しない。一般に公称切取り厚さを小さくしてゆくと、切くずの排出が不安定になり、ある限界の切取り厚さ(最小切取厚さ)以下では正常な切削が行なわれなくなる。本研究では、この最小切取厚さと切削工具の微視的な切刃の性状および被削材の特性との関連を明らかにし、超精密切削加工における切削現象の制御限界という観点からの加工精度限界を示すとともに、理想的な切削性能を有する超精密切削工具の必要条件のひとつを明確にしようとするものであり、今年度の研究実績は以下の通りである。 1.前年度に製作した切削実験装置を用いて、鋭利な切刃を持つ工具と損耗の進んだ工具による切削実験を行った結果、切刃の微視的性状が最小切取り厚さに大きく影響し、特に切刃稜丸味半径の絶対値だけでなく、その有効切刃長さにわたる一様性が工具の切削性能に大きく影響し、一様性が高い程最小切取り厚さは小さくなることを明らかにした。 2.ナノメートルレベルでの極微小切削においては、最小切取り厚さと切刃稜丸味半径との関係およびそれらに対する被削材の材料特性の影響を実験的に解明することは極めて困難である。そこで、切刃近傍における被削材変形挙動の第一近似として、有限要素法を用いて丸味を持つ切刃稜が被削材に押しつけられた時の切くず分離点の位置を解析的に推定することを試みた。その結果、通常の極微小切削における切取り厚さが切刃稜丸味半径の約2/3程度になると、切くずを排出することが出来なくなり、工具・被削材界面の親和力が高くなると最小切取り厚さが大きくなることを明らかにした。
|