本研究は、M系列やGold系列などの符号よりも相関特性が優れた実数値の凝似雑音符号を開発し、耐妨害性、秘話性を従来よりも高めたスペクトラム拡散多重伝送方式の基礎を確立することを目的として、昭和62年度から昭和63年度までの2年間に亘って行なわれた。新しい符号とそれを用いたスペクトラム拡散通信方式は、この方面の技術者でも馴染みがないので、直接拡散方式に的をしぼって理論のほかに簡単な実験を行って説得性を持たせた。 結論的には、局間于渉のない多重伝送の一方式が見出され、符号発生と相関演算にディジタル信号処理を採用すれば、ほぼ理論通りの性能が得られることが分かった。今後、専用DSPあるいはASICの開発が進展すれば、実用レートの実数符号によるスペクトラム拡散多重伝送が実現できると思われる。以下に、研究成果を項目毎に要約する。 1.多重伝送のための実数直交凝以雑音符号の開発 自己相関関数のサイドローブが0となる実数直交凝似雑音系列の一般式を与え、遅延差が0で直交し、かつ相互相関の絶対値が小さい素数長および2のべき乗長の系列の組の生成法を示した。 2.スペクトラム拡散多重伝送方式の研究 交信局の遅延時間が一定の範井内に分布しているとき、遅延差0で直交する系列のデューティ比を下げて、時分割・符号分割の無于渉のスペクトラム拡散多重伝送方式を提案した。同期時の電力利用効率はほぼ100%になる。 3.実数多値直交凝似雑音符号のディジタル処理の研究 気中超音波領域のパルス圧縮レーダシステムを構成し、ディジタル相関器の量子化雑音は処理利得によって抑圧されることを確認した。2のべき乗長の系列に対するFFTを介した相関処理でも丸め誤差は抑圧された。又、数論変換に適した系列も検討した。
|