本年度の研究テーマは1)プレコンディショナーの理論的研究、2)プレコンディショナーの数値実験的研究の二項目である。 1)プレコンディショナーの理論的研究:構造解析で有用と考えられるプレコンディショナーとしてロバスト法が考えられる。この手法はその基本として不完全コレスキー法を用いている。ある種の行列に対して不完全コレスキー法を用いた場合、分解過程で主対角が負となり演算不能となることがわかった。ロバスト法ではこの欠点を克服する方策を用いているが、依然として同様な演算を発生させることが判明した。この計算不能はコレスキー分解が不完全であることに起因しており、またロバスト法でも依然としてその修正が不十分であることより、同様な計算不能現象を発生せしめいたことを本研究で明らかにした。さらに、この様な計算不能現象の発生を防止する手法、すなわち主対角要素の新たな修正法を理論的考察より提案した。 2)プレコンディショナーの数値実験的研究 上に示したプレコンディショナーに対する理論的研究より得られた新たなプレコンディショナーを実際にコーディングし、従来からの不完全コレスキー法のプレコンディショナーとして導入を図り、ロバスト法をおいて計算不能を引き起こしていた行列を対象として実際に計算を行った。結果として、全ての場合において新たなプレコンディショナーは計算不能を克服し、またそれ以外のケースについてはロバスト法と同程度もしくは少しばかり劣る程度の良好な収束性状を示すことが得られた。この結果はここに新たに提案したプレコンディショナーの有効性・妥当性を示すものであって、またどのような行列に対しても計算不能を引き起こさないことより、この手法は汎用的計算法として有効であることを示している。
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