この研究で行ったテーマは以下のとおりである。1)プレコンディショナーの種類とそれらの有効性、2)プレコンディショナーの理論的研究、3)新たなプレコンディショナーの開発、4)スーパーコンピュータへの組み込み。以下においてこれら諸テーマについて得られた成果をとりまとめる。 1)プレコンディショナーの種類とそれらの有効性:プレコンディショナーは行列分離と行列分解の二種類に大別でき、一般に後者が良く用いられる。後者のほとんどが不完全コレスキー法をベースとしたものであって、それらは構造解析で遭遇する板曲げ、シェルといった種類の行列を対象とした時演算不能を引き起こし、結果として汎用的な解法といえないことが判明した。 2)プレコンディショナーの理論的研究:不完全コレスキー法を用いた時、分解が不完全であることより主対角値が分解過程で順次小さくなり最後に負になる。従って、不完全コレスキー法を採用する場合なんらかの形で主対角要素を修正する必要がある。いわゆるロバスト法はこの一つの対策であるが未だ十分な形ではなく、ある種の行列においては依然演算不能を発生することが判明した。 3)新たなプレコンディショナーの開発:ロバスト法の欠点を補う形で本研究において、より効果的なプレコンディショナーを提案し、その有効性を数値実験で確認した。この新たな手法ではロバスト法で無視されていた非対角部の不完全分解要素についても主対角部を修正するようにしている。従って、分解過程を通じて主対角部の要素は常に正値となり、結果として計算不能を引き起さないようになっている。 4.スーパーコンピュータへの組み込み:上に示した新たなプレコンディショナーを不完全コレスキープログラムに追加し、汎用的数値計算法を作成した。
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