本研究においては、多方向不規則波浪に対する波別解析法に着目し、個々の波の波高と波向の確率分布を理論的に導き、その結果を現地観測結果と比較して検証することを目的としている。 今年度行った理論的考察は以下のごとくとりまとめられる。すなわち、まず多方向不規則波浪場について狭帯域スペクトルを仮定し、水面変動と水平2成分水粒子速度を対象として包絡線波形を用いた波別解析を行った。個々波の波向を水粒子速度の絶対値が最大になる方向と定義し、方向スペクトルのモーメントにより記述された(a)流速振幅・波向の結合確率密度、(b)波高・波向の結合確率密度、(c)波高・周期・波向の結合確率密度、を導いた。 理論の妥当性を検証するため、1988年10月に茨城県大洗港において現地観測を行った。得られた波浪データをゼロダウンクロス法により波別解析し、理論地との比較を行った。さらに、平均波向的な個々波の波向の定義を用いて昨年度導いた理論値との比較をも行った。 以上により、以下のような知見を得た。(1)流速振幅・波向の分布については理論曲線と実測値が定性的にはよく合うが、定量的には流速振幅の小さい領域では合うものの全体としての一致はあまりよくない。これに関しては実測データの流速振幅をどのように決定するかが重要な問題であり、今後検討の余地がある。(2)波高・波向の結合分布については、波向として平均波向的な定義を用いた場合、理論値と実測値の一致があまりよくなかったが、今年度用いた主波向的な定義によれば、両者の一致は極めて良好であった。この結果、主波向的な定義による理論を、工学的諸問題に応用していくことの妥当性が確かめられた。
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