昨年度、土地利用計画及び交通計画における開発利益還元の制度及び政策の体系を分類整理し、土地利用計画制度を中心に国際比較を行った。本年度は、交通計画に関して、特にわが国の都市鉄道整備に焦点を絞って、その財源方策の視点から制度について比較分析を進めた。 1986年において、わが国の都市鉄道整備のための建設費は年間約6千億円程度であるのに対して、公的補助はわずか500億円である。そのため、残りの財源は、公営企業は企業債など、また私鉄は日本開発銀行や市中銀行などからの融資に大きく依存しており、その借金を開業後の運賃収入によって返済するというのが、一般的なパターンである。 財源制度を検討する場合の評価の観点としては次のようなものが上げられよう。 1)負担原則 (応益原則と応能原則) 、 2)受益と負担の公平性、 3)受益の特定と捕捉の容易さ、 4)負担能力、 5)資金調達と資金需要のタイムラグ。こうした観点から先進各国の財源制度を見れば、西独において最も応能負担原則が強く、ほとんど公費負担によって行われているのに対して、日本や米国では、応益原則に基づく受益者負担の比重が重く、日本はその中でも、直接受益者である利用者の負担が極端に大きいのが特徴である。すなわち、日本においては、間接受益者である都市鉄道の沿線の土地所有者などからの間接利益の鉄道事業者への還元率が極めて低い状況にある。 わが国では、こうした開発利益を還元するための土地税制などの制度はかなり整っているにもかかわらず、実効税率が極めて低い等、それらが十分に機能していない。しかしながら、上述の2)、4)、5)のいずれの観点からも、開発利益の還元が必要な時期にきていると考えられる。そのためには、3)で示した受益の特定に関する説得力のある方法の開発が極めて必要とされる。
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