本研究は、ここ2、3年来わが国において、土地利用計画及び交通計画で頻繁に議論されるようになってきた開発利益還元問題について、主要国間でその制度の基本的な考え方を比較し、また、特にわが国で開発利益還元が強く求められている都市鉄道整備について、詳しくその現行方式と問題点を理論的に整理している。その結果、以下に要約するような見地が得られた。 開発利益の定義は従来種々なされてきたが、広義には「開発に伴って発生する便益が種々の主体に帰着したもの」を示し、また、狭義には「開発に伴って発生した便益が特定の土地・不動産の増価に帰着したもの」を示す。 開発利益の還元制度としては、一国のすべての開発に対して一律に適用される一般的制度と、個々の開発ごとに定めて適用する個別制度とがある。西独や英国は、それぞれ土地利用計画制度、土地税制と対照的な手法により一般的を制度をつくり上げている。一方、米国ではプロジェクトごとに各州で投票により制度化を図っている。日本は、前者の傾向が強いが、還元制度としてはきわめて緩いものである。一般的制度を厳格に適用できるのは、いわゆる建築不自由の原則、すなわち、いかなる開発も公共の許可なくして実施できないことが、憲法あるいは土地に関する基本法で定められている国に限られる。 交通計画における開発利益還元について、わが国制度をその典型の1つである都市鉄道整備を例としてみれば、西独など西欧諸国に比べて受益者負担の比重が重い。また、その中でも直接受益者である利用者の負担が極端に重いのがわが国の特徴である。一般に鉄道整備の便益は、利用者のみならず、沿線土地所有者等へも多く帰着すると言われている。わが国には、こうした開発利益を公共あるいは交通事業者に還元する制度はあるが、その率が極めて低いのが問題である。
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