平面上二方向の壁板が連続している開断面耐震壁は、単一平面壁には見られない性状を示し、建物全体のねじれ挙動や終局的な強度に大きな影響を与える。筆者はこれまで、等辺のL字形開断面壁の二方向水平加力実験やL形を構成する平面壁要素の変形性状についての実験研究を行ってきた。本年度は、上記の研究実績を踏まえて、不等辺のL字形断面を有する曲げ破壊型の鉄筋コンクリート開断面耐震壁の二方向水平加力実験を行った。試験体は断面形状を2種類に変えて6体作製し、二方向加力の種類は、1.一方の壁に平行な方向に変位漸増繰り返し水平変形を与えるもの(X型)、2.x-y水平面上で円形に変形を与え、その半径を漸増させるもの(C型)、3.一方の壁に対して45°の角度をなす二つの方向に交互に変位漸増繰り返し水平変形を与えるもの(D型)、の3とおりとした。本実験で得られた主な研究成果はおおよそ次のとおりである。1.一方向加力のX型に比べて二方向に加力したC型、D型は、壁脚部コンクリートの圧壊が激しく靭性に劣る。2.他方の壁が引張フランジとなる方向に変形する場合には、フランジ壁のコンクリートが引張応力を負担して荷重-変形曲線に影響を与え、フランジ壁幅が広いと最大耐力時の変形が非常に小さくなる。3.L字形で挟む45°方向に変形する場合に、壁幅の小さい側の壁に平行な方向の荷重-変形履歴曲線は、特異な形状となり、各サイクルの変位ピーク以前に荷重の最大値をとり、各サイクルごとに負勾配のある荷重-変形曲線になる。また、その壁幅によっては、その方向のせん断力をほとんど負担しない場合がある。4.x-y荷重履歴曲線は、仮定した3とおりの曲げ破壊パターンによって描かれるx-y荷重平面上の三角形内にほぼ含まれ、二方向曲げ終局耐力が概ね推定できる。5.曲げ降伏後の曲率分布は平面壁のそれとは異なり、開断面壁全体として考える必要がある。
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