初年度では、これまで一連の公共図書館システムに関する研究の事例としてきた千葉県柏市における、図書館利用状況調査の調査データをもとに、住民の図書館サービスの平等性の観点から、総合的な分析を行った。中では、住民特性(年齢・性・居住形態・家庭内の蔵書冊数など)、立地特性(図書館と自宅との位置関係・図書館までの距離や交通条件など)と個々人の図書館利用・非利用との因果関係の解明を目的とした、図書館非利用者を含む市民を対象とした「住民調査」の分析に最も力を注いだ。まず、定性的な側面から考察し、成人では女性の方が男性より、40歳代前半までの人がそれ以上の年齢の人よりも、短大以上の学歴の人がそれ以外の人よりも、市内居住歴の短い人がそして家庭内に蔵書を多く持つ人の方が図書館利用者となる比率が高いことを見出した。また図書館を利用できない・しない理由を全国調査結果などと比較検討した。次いで、近年交通工学分野において「交通手段選択モデル」として開発されたロジットモデルに着目し、上記調査データを図書館を利用するしないと、利用館が本館であるか分館かという二つの選択行動に適用したモデルの構築を行い、同モデルの有効性を証明した。第二には、全国の公共図書館に対するアンケート調査のデータ集である『日本の図書館』を用いて、施設の効率性を相互比較することが可能な指標の設定を目的とした分析を行った。第二年度においては、ロジットモデルの改良を行うなど、研究全般の精緻化を行った。 最後に、これまでの分析結果をもとに、一つの市域の中に小規模分館を多数配置すべきという従来の計画指針に対し、館数を少なくしても個々の館の蔵書規模を大きくしそれぞれに特色を持たせることで、利用者の施設選択の幅を広げる方が効果的であるとの配置計画指針を得たが、今後はこの指針の実際への適用手法の開発が課題である。
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