研究概要 |
本年度は, R.マレ=ステヴァンスとP.シャローの二人の建築家の事績を子細に検討した. マレ=ステヴァンスは, ノアイユ邸(1923年), ポワレ邸(1924年)など, むしろル・コルジュジエに先んじて国際様式による大規模な住宅を建てた文字通りの近代建築のパイオニアだが, 結局, 厳格なるモダニズムと夢想的な装飾性との間で揺れ動き続けた建築家であった. この後者の部分が言わばアール・デコなのだが, アール・デコの元も繊細な面を体現していると見てよいだろう. P.シャローは, 建築家としては全くダルザス邸(ガラスの家, 1931年)のみによって知られるにすぎない. 家具・インテリアデザイナーとしては, 彼は典型的なアール・デコのデザイナーと考えてよい. したがって, ダルザス邸をどう見るかだが, これはガラスブロックに対する異常な執着を除いても, やはりモダニズムの代表例としてよいであろう. 以上の二人はの事績は, むしろモダニズムの波及力・影響力の強さを再認識させるものである. 今後, より古典主義的なM.ルー=スピッツ, よりアール・デコ的なR・エクスペールの業績を検討して, 古典主義の伝統と, 最も強力なイデオロギーとしての近代主義と, そして時代の感性としてのアール・デコが, 1920-30年代にどのように交錯し合ったのかを見て行かねばならない. また, アール・デコがもし時代の感性であるとすれば, 1920-30年代のフランスのアノニマスな建築作品にその感性がどのように現われているのかも見て行かねばならない. しかし, 1920〜30年代の文化一般に関する研究書・資料は今日いくらか出て来てはいるが, 無名の建築がどんなものであったかは意外とわからず, この作業は容易ではない. なお, 1930年代の古典主義的建築観に及ぼしたヴァレリーの「エウパリノス」の影響を指摘した論文を発表ずみである.
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