本年度は、ルイ・ボニエおよびジュールダン家三代のそれぞれのモノグラフが刊行されたのを機に、この二組の建築家の事績を検討した。ボニエは本研究の対象とする時代よりやや早く活躍してるが、言わばアール・ヌーヴォとアール・デコをつなぐ建築家であり、フランス建築界の主流を歩んだ人であった。一方、フランツ、フランシス、フランツ=フィリップの三代の建築家の家系ジュールダン家も、今世紀前半に活躍した建築家一家で、祖父から孫への間にアール、ヌーヴォーからモダニズムへの流れが見てとれる。 彼らは、それぞれの時代の底流をオーソドックスに歩んだ建築家であり、同時代の文献にはしばしば登場するが、その後あまり語られて来なかった。後の時代へとつながる前衛性を欠いていたからであろう。しかし彼らの事績を検討すると・大きくはクラシシズムからアール・ヌーヴォーとアール・デコを経てモダニズムへという時代の流れに規定されているのがわかる。そして彼らにおいては、アール・ヌーヴォーの影響が特に強い。けれどもまた、彼らの建築には何か「建築のフランス性」とでも言うべきものが貫流している感が強い。つまりクラシシズム、モダニズムといった地域性を越えた普遍的な概念も、具体的な形態としての現象レヴェルにおいては地域的に相当異なっているということである。今後は、そうした点を加味して検討して行かねばと考えている。以上のように、本年度は直線的にはさしたる研究の進展を見なかったが、研究のテーマの扱いが複線科し、深化したものと解釈している。テーマの複線化に応じて、研究対象が18・19世紀へと時代を遡るきらいもあった。具体的な研究成果の発表も、そうした時代を遡行した論考一編のみを表わしたのみである。今後、こうした研究領域の拡散化をおさえて、焦点をしぼっていきたい。
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