本年度は主としてスュ-(Louis Sue)とニエルマン兄弟(Edouard & Jean Niermans)の業績について検討した。彼らは共に1920-30年代に主たる活動を行ったア-ル・デコ期の建築家であるが、よりモダニズムに近いア-ル・デコのスュ-に対して、ニエルマン兄弟のア-ル・デコは1930年代の特色をよく現して、よりクラシックに近い。近来、次々と出版されてきたフランス近代の建築家たちに関する研究書によって、これまでペレ、ル・コルビュジエ、ガルニエを初め、マレ=ステヴァンス、エクスペ-ル、ソヴァ-ジュ、ル-=スピッツ、シャロ-、ボニエ、ジュ-ルダンなど多くの建築家の事績を子細に検討してきた。 当初の意図は、まず、全くの様式建築(主として古典主義様式建築)でもなく、全くのモダニズムの建築でもない1920-30年代の建築、すなわちモダニズムのシンプルな幾何学的造形を採用しつつ、セセッションや表現主義やキュビスムやあるいはマヤやインカから装飾的細部をとり入れ、また様式建築の構成要素を単純化して残し、そしてレリ-フを多用する建築、そうした建築を総称してア-ル・デコの建築と呼ぶことであった。これはア-ル・デコという用語をできるだけ広義に用いることを意味する。そして次に、そのア-ル・デコの建築が、古典主義とモダニズムという二つの排他的で強力なイデオロギ-を溶融し、古典主義のもつ時代を超えた普遍的意味を表現つ続けつつ、またモダニズムの革新性をやわらげ、それが世界に流布する露はらい的な役割をも果たしたことを立証することであった。しかし、その意図は多くの建築家の事績を調べるにつれて一層の深化を迫られている。すなわち1920-30年代の国際的な建築運動の展開にも拘らず、フランス的建築とでも呼ぶべき地域的伝統が彼らの作品の基層に見られることである。今後、上の意図を保持しつつ、もう少し時間をかけてこれまでの成果を発表して行きたい。
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