研究概要 |
〈建築する〉とは「人間によって具体的に生きられ, 体験される空間を人為的に構築することである」という基本理念にのっとって, 以下の三項目に示すような研究をすすめた. 1.古代の建築と都市に関するヨゼフ・リクワートの難解で意味深い著作『都市の理念』の詳細な検討を通して, 古代ローマ建築に関連して, 〈建築〉を問う建築論的考察を深め, ボルノウ, ハイデガー, エリアーデらの〈住まう〉に基づいた人間学的空間論の志向性において, リクワートの古代都市論を「祖型反復して〈住まう〉」という側面から論考した. あわせて本著作の邦訳素訳を試みた. 2.マルセル・プルーストの大著『失われた時を求めて』によって, そこにとり上げられているサンティレール教会堂という(イメージとしての)ゴシック式教会堂における主人公マルセルを通してみたプルーストの聖堂体験を, ハイデガーの〈詩的に住まうこと〉やバシュラールの〈夢想〉という概念の上で分析し, 建築現象としての教会堂とそれの経験との実存論的関係の考察を行った. 3.パノフスキーの名著『ゴシック建築とスコラ学』に関して, フィリップ・ブドンの批判を参照しながら, その詳細な分析を行うとともに, ゴシック建築(空間)論の主要な広がりを通観し, パノフスキーのゴシック建築論を位置づけた. これに伴って同著作の邦訳を完成し, 出版した. この実績は今後のゴシック建築論に対して重要な寄与であると自認している. 以上のうち第2項は当初の計画では深く立ち入る予定のなかったものであるが, 研究の進展のうち, スミスのドーム論の考察にとって代わってとりあげることになったものである.
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