<建築する>とは「人間によって具体的に生きられ、体験される空間を人為的に構築することである」という基本理念にのっとって、以下の三項目に示すような研究をすすめた・ 1.マルセル・プルーストの大著『失われた時を求めて』によって、現象学的立場から、コンブレの町とその教会堂サンティレールの空間と空間経験との実存的意味をプルーストの経験を通して明らかにした。さらに、シャルトル大聖堂にその原像を有すると思われるサンタンドレ・デ・シャン教会堂の芸術的・存在的性格を分析し、そこに中世芸術のもつ象徴性を読みとった。 2.古代の建築と都市に関するジョーゼフ・リクワートの難解で意味深い著作『都市の理念』のいっそう詳細な検討を行い、かつ全文の邦訳を完成した。しかしその成果を論文にまとめるには至っていない。なお、邦訳はしかるべき出版社から公刊するつもりである。 3.シトー修道会に属する12世紀前半の南フランス・プロヴァンス地方の三つの修道院をとりあげ、とりわけ、現代の建築家フェルナン・プイヨンの著した小説『粗い石』を通して、ル・トロネ修道院の建築の意味とその聖なる空間の現象を考察し、それがプロテスタント神学者パウル・ティリッヒのいう<聖なる空虚>に通じる現象であることを序説的に考察した。これは正式の学術論文の形式をとってはいない。 以上のうち第3項は当初の計画では深く立ち入る予定のなかったものであるが、研究の進展のうち、スミスのドーム論の考察にとって代わってとりあげることになったものである。そのほか建築論学者ノルベルグ・シュルツの諸著作を通して建築空間論を深める基礎的研究を並行している。
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