研究概要 |
本研究ではMo基多層膜の構造, 相互拡散を詳細に調べ, それらの知見をもとに, 多層化により新しい特性が期待し得る超伝導性質を検討しその機構を解明することを主な目的とした. ところでMo基多層膜に関しては従来, Mo/Sb, Mo/BNなどの系において多層膜によりいずれも超伝導遷移温度Tcが上昇すると報告されているが, その機構は明らかではない. そこで, 今年度は従来, 相互拡散が全く調べられていない金属結晶/非晶質系の組合せであるMo/Si多層膜に関して, 構造, アニール効果, 相互拡散および超伝導性質に関する系統的な研究を行なってきたので, その結果の概要を報告する. 以下の内容の主要な部分は昭和62年8月の第18回低温物理学国際会議で発表し, 既に4編の学術論文として専門誌に公表済みである. また, 昭和63年5月に開催されるMRS先端材料国際会議で招待講演として発表する予定である. 1.実験方法: 2元ターゲットを有するマグネトロンスパッタ装置を用いて多層膜を作成した. X線ディフラクトメーター法を用いて構造と相互拡散を測定した. また, 四端子法を用いて超伝導遷移温度Tcおよび上部臨界磁場Hc_2の測定を行なった. 2.実験結果および考察: X線回折および電気抵抗の測定結果から, MoとSiの積層周期λが30〜40〓以下ではMo層は非晶質, それ以上では結晶質である. Si層はλにかかわらず非晶質であった. Mo/Si多層膜の相互拡散係数は, 400°Cで10^<-20>cm^2S^<-1>, 600°Cで10^<-18>cm^2S^<-1>程度であり, 活性化エネルギーは105KJ/molであった. アニールによりλが10%程度減少することを見出し, その原因はシリサイドであると推定した. 超伝導のTcおよびHc2を詳細に測定した結果に基ずきMo層18〓, Si層31〓の多層膜を作製した. その結果この試料では, dHii/dTがきわめて大きいことを見出し, かなり理想的な2次元超伝導が実現された.
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