研究概要 |
1.目的:収束電子線回折(CBED)図形の透過波円板内には高次ラウエゾーン(HOLZ)反射による線状コントラストが現われる. このHOLZ図形から材料の局所的格子定数を手軽に求める方法とその測定精度を実験と理論の両面から検討した. 分析型電子顕微鏡JEM-2000FXを用いて直径約10〜20nmの電子ビームをSi, Ge, GaAs, InP, GaSb等の半導体結晶に照射し, CBED図形を得た. 運動学的回折理論に基づくHOLZ図形のシミュレーションを行うとともに動力学的回折理論によるHOLZ線のプロフィールの計算を行った. 2.結果:HOLZ図形は入射電子線の波長や格子定数の変化に非常に敏感で, HOLZ線の交差する位置やHOLZ線によってできる多角形の大きさや形の変化に着目すると, 逆に波長や格子定数の値を知ることができる. (1)実際に観察したHOLZ図形と, 既知の波長と格子定数をもとにシミュレートした図形とは必ずしもよく一致しなかった. (2)この不一致の程度は結晶の種類だけでなく, 加速電圧や電子線の入射方位にも依存していた. (3)この不一致は動力学的多波効果によるものである. (4)観察結果とシミュレーションとの比較によって手軽に格子定数を求めるには動力学的効果による影響をできる限り除去する必要がある. 最も簡便な方法は, 未知試料と同じ結晶構造をもち, しかも平均原子番号が未知試料のそれからあまり離れていないような試料を標準試料として用い, 加速電圧をあらかじめ効正しておくことである. 適当な加速電圧と入射方位を選べば局所領域の格子定数の絶対値を0.1%程度の精度で求めることができる. (5)HOLZ図形の変化から, 明視野像や暗視野像では観察困難な微小な格子歪も検出できる. この方法は, 今後, 微小析出物と母相との格子ミスフィットの量あるいは, 各種整合界面やヘテロ接合界面近傍における格子歪や濃度ゆらぎ等の評価に応用できると思われる.
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