62年度の研究において、Tiの添加又は真空溶解によって片状黒鉛組織から共晶状微細(コラル)黒鉛組織に遷移しても、凝固前面の温度と成長速度との関係は連続的に変化すること、すなわち共晶状黒鉛の生成は従来言われていたような過冷した結果生じるものではないことを明らかにした。63年度においては、まず、Ti添加及び真空溶解によって共晶状微細黒鉛が生成される原因を明らかにするために、一方向凝固凝固した領域の黒鉛組織とガス元素(O.N)含有量との関係を調べた。その結果、次のことが明らかになった。 Tiを添加した試料及び真空溶解した試料は、アルゴン中で溶解凝固させた試料と比較して、固溶酸素及び固溶窒素ともに低い値を示した。共晶状黒鉛組織となった試料の固溶窒素は5PPm以下、固溶酸素は80PPm以下であった。片状黒鉛組織となった試料のガス元素含有量はこの値より高いが、この境界付近の含有量では、成長速度が速い場合には微細共晶状黒鉛組織となり、成長速度が遅い場合には片状黒鉛組織となることが分かった。すなわち、微細共晶状黒鉛組織となるガス元素含有量の限界値は成長速度に依存することが分る。 つぎに、微細共晶状黒鉛鋳鉄の基地組織をベイナイト化するために、Ni、Cu及びTiを添加した鋳鉄を真空溶解して黒鉛鋳型に鋳込んだ。この供試材をオーステンパー熱処理して、基地をベイナイト組織とした。この試料は引張強さ50Kg/mm^2、硬さHv270であり、プラスチック射出成形用金型として期待できる材料と考えられる。しかし、伸びは約0.5%であり、靱性が低いのが問題である。これはオーステンパーの温度と時間を変えて、残留オーステナイト量を増加させることによって解決されるものと思われる。
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