金属の腐食は、種々の耐食性構造材料の寿命を左右するものである。腐食生成物の組成、性状が環境の変化に敏感であることを考えると、実環境下での腐食過程の測定が望まれる。本研究では、鉄鋼の腐食生成物つまり「さび」の実環境下での同定法としてのレーザーラマン分光法を確立することを目的として、以下のことを試みた。 1.各種鉄酸化物ならびに水酸化物のラマンスペクトルの測定。未整理の鉄酸化物(α-、γ-Fe_2O_3、Fe_3O┣D24)と水酸化物(α-、γ-、β-FeOOH)のラマンスペクトルを測定した。ここで、これらの酸化物のレーザー光照射による加熱のための変質を避けるために新たに、ステンレス鋼上にKBrを用いて薄膜(厚さ数μm)として分散固定する手法を開発した。 2.鉄および低合金鋼上の大気腐食生成物のラマンスペクトルの測定。鉄ならびに低合金鋼(3種)を20〜80℃に保ち、水滴を滴下してさび層を生成させた時の鉄さびの組成の経時変化を測定した。80℃では常にFe_3O_4のみが観察されるが、50℃以下では水滴に含まれるアニオン種、酸化時間、合金添加元素により、さびの組成は異なる。初期さびは主にγ-FeOOH、数日後にはγ-Fe_2O_3、Fe┣D23O┣D24┫D2、α-Fe┣D22┫D2O┣D23が生成した。 3.高温酸化実験測定用ラマン分光セルの制作。最高300℃をめどに高温大気腐食実験用の"その場"ラマン分光セルを試作した。これを使う実験は未だ開始していない。 4.光ファイバー利用の遠隔操作ラマン分光法用装置。分光器と離れた場所にある反応箇所を測定するために光ファイバーでレーザー光ならびにラマン光を伝送するシステムを試作し、その基本性能を調べた。特に、光ファイバー導入に伴う光量損失を検討した。
|