研究概要 |
水素吸蔵多元系アモルファス合金の作製を考えるに, まず水素が吸蔵されしかもアモルファスになる2元系アモルファス合金を考え, それらを組み合わせることによって得られる3元系アモルファス合金(Ti-Zr-Ni系,Ti-Zr-Cu系,Ni-Zr-V系)の生成組織領域を調べた. そのアモルファス生成領域は2元系の場合よりも一般的に広くなり, 生製難易度はNi-Zr-V系を除いて容易になっている. 予想されるナノスケール相分離に関しては, 中性子全散乱実験(全散乱中性子分光器(HIT), 中性子小角散乱装置(SAN)によって調べた. Ti-Zr-Ni系アモルファス合金に関しては, どの組成においてもナノスケール相分離は観察されなかった. ところがTi-Zr-Cu系アモルファス合金では小角領域の散乱強度の増加が観察されることや, その3元系の2体分布関数g(r)でCu-Zr2元系で見られるg(r)の第1ピークが強く観察されること, そして化学的にみてCuとTiよりもCuとZrの方が親和力が強いことから, Ti-Zr-Cu系アモルファス合金にはケミカルフラストレーションによるナノスケール相分離が生じていると考えられる. Ni-Zr-V系アモルファス合金ではV原子の干渉性核散乱振幅が零に近いことを利用し, Ni-Zrの原子構造を観察した結果, 単純なNi-Zr2元系アモルファス合金には見られない小角領域の散乱強度の増大が観測された. その小角散乱強度の分布関数から, ケミカルフラストレーションによって生じるゆらぎのサイズは直径約10〓であることが明らかになった. このゆらぎはNi-Zrのrichな相とVのrichな相からなり, Ni-Zr rich相ではVの添加量の増大に伴いNi-Zr相の化学的短範囲規則度も増大することが明らかになった. 以上の結果から, ナノスケール相分離は化学的結合力の異なる原子を組み合わせることによって多元系アモルファス合金で生じさせることが可能であることが示唆される.
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