金属アルコキシドを出発原料とするゾル-ゲル法は、多成分系セラミックス薄膜を作製するための有望なプロセスである。本研究では、ゾル-ゲル法によりPbZrO_3系強誘電性薄膜を作製し、生成過程を検討した。この場合の大きな問題は、出発原料であるTiやZrのアルキシドが非常に加水分解されやすいことである。ここではまず、これらの金属および、同じように加水分解されやすいBのアルコキシドの安定化について検討を行い、これらの結果を基に、PbTiO_3-PbZrO_3系薄膜の作製と特性の評価を行った。得られた研究成果は以下の通りである。 (1)雰囲気制御によるZrO_2およびB_2O_3を含む多制限系薄膜の作製:ZrやBのアルコキシドを出発原料とする薄膜は、通常の雰囲気中では白濁したが、相対湿度30%以下の乾燥雰囲気の中でコーティングを行うことにより、透明性の高いZrO_2〜SiO_2系、およびMO-B_2O_3-SiO_2系(M:2価金属)薄膜が得られることを見いだた。 (2)キレート化剤による金属アルコキシドの安定化とAl_2O_3、TiO_2、ZrO_2薄膜の作製:Al、Ti、Zrのアルコキシドにβ-ジケトン類のキレート化剤を添加すると、アルコキシドは部分的に安定化され、通常の雰囲気中でコーティングしても均質なAl_2O_3、TiO_2、ZrO_2薄膜が作製できることを見いだした。 (3)PZT系薄膜の作製と特性:以上の結果を基に、Ti(O-nBu)_4とZr(O-nBu)_4にAcAcを添加して安定化させ、これにPZTを加えた後加水分解を行ってPbTiO_3-PbZrO_3薄膜を作製した。これらの薄膜は400°C以下の熱処理では非晶質であるが、500°C付近の熱処理でペロブスカイト相が析出し始め、温度が高くなるほどその結晶性は向上した。このような結晶性の向上にともなって薄膜の誘電率は高くなった。PbTiO_3にPbZrO_3を添加していくと、誘電率は等モル付近で極大を示しながらも一様に減少した。
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