銅イオンが化学反応や電気化学反応の触媒として働く例は数多く知られている。そのような系での銅イオンの作用機構を知ることは、これらの反応を工業的に応用する上で意義深いものと思われる。本研究担当者らは、二核銅錯体が関与すると思われる一連の触媒反応に注目し、その中で特に銅イオンを触媒とする亜硫酸塩のジチオン酸塩への電解酸化反応について詳細な研究を行った。 研究方法として、電流電位曲線の測定、電位ステップクロノアンペロメトリー、回転リングディスク電極法などの電気化学的方法と、可視紫外分光器を用いた分光電気化学的方法を併用した。中性ないし弱アルカリ性の亜硫酸塩水溶液中で2価の銅イオンは安定ではなく、亜硫酸イオンによって還元されて、1価の状態になることが知られているが、この溶液を陽極で電気化学的に酸化するとジチオン酸イオンがほぼ選択的に生成することを見出した。この反応において2価の銅化合物が中間体として生成することを、光透過性電極(OTE)を用いた分光電気化学測定より確認した。電流電位曲線の測定やOTEを用いた吸光度の時間的変化の測定から、2価の銅中間体の分解反応は銅(II)について2次の反応であることを見出し、反応経路の中に2核銅(II)錯体が存在する可能性を示した。さらに、電位ステップクロノアンペロメトリーによって、亜硫酸塩系での銅(II)と銅(I)の酸化還元対の見掛けの標準電位および銅(II)中間体の分解反応の見掛けの速度定数を測定した結果、2核銅(II)錯体は、2つの亜硫酸イオンを配位子とするヘキサスルフィト二銅(II)酸イオンであることが結論づけられた。この型の2核錯体は他の類似の反応や酵素反応にも関係している可能性がある。また、本研究で用いた手法は不安定な金属錯体の性質の研究のために応用できるであろう。
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