研究概要 |
本研究は, 電子写真有機感光体として実用上重要な高キャリア移動度をもつ有機光導電材料の分子設計指針を提出することを目的としたものである. 62年度は, 低分子化合物の樹脂分散系複合キャリア輸送材料としても広く用いられている一連のトリフェニルアミン誘導体を合成し, その分子構造キャリア輸送能を検討した結果, (1)トリフェニルアミン誘導体におけるホールキャリア輸送を担う最小化学構造単位がN-フェニル基として促え得ること, (2)高キャリア移動度達成のためには, この最小構造単位のN-フェニル基をキャリア輸送の感応基として分子内にできるだけ多く有すること(多感応性), (3)分子内でこのホール最小単位が互いに共役でき, 分子内共役長の長いもの(分子内移動性)が良好である, との結論を導くことができた. その結論にもとづいて, さらに感応基を多数有する一連の誘導体を合成し, 結論の確認を進めている. また本研究の過程で, トリフェニルアミン2量体化合物(N, N, N′, N′-テトラフェニルフェニレンジアミン)において, パラおよびメタ置換体が大きな移動度の違いを示すことを新たに見い出し, 分子軌道計算からその差について検討を加えた結果, 中性ならびにカチオンラジカル状態において電荷の偏りの少ないことが分子内移動性の具体的概念として明らかになるとともに, 高移動度材料の分子設計指針となり得ることを示した. 実用的観点から樹脂との相溶性の向上のためにメチル基を導入したそのメタ型誘導体において, 70wt%分散量でドリフト移動度は10^<-4>cm^2/V・secまで高めることができた. さらにヒドラゾン誘導体についても拡張し, 上記の結論の成り立つことが確認できた.
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