本研究は電子写真有機感光体として実用上重要な高キャリア輸送能を有する有機光導電材料の分子設計指針を提出することを目的としたものである。現在キャリア輸送有機材料として広く用いられる低分子化合物の樹脂分散系におけるキャリア輸送低分子化合物としてトリフェニルアミン誘導体を取り挙げ、分子構造とそのキャリア輸送能の関連を検討した結果、まず空間的に広がりをもつπ電子系ホール輸送化合物において最も酸化され易い部位、たとえばトリフェニルアミン誘導体においてはN-フェニル基、をホール輸送を担う最小化学構造単位と捉え得ることを見い出し、この新しい概念にもとづいて高移動度キャリア輸送化合物開発の分子設計指針として、 (1)ホール輸送を司どる最小化学構造単位をホール輸送の感応基と見なせば、この最小構造単位を分子内にできるだけ多く有すること(多感応性)、 (2)カチオン状態において、ホール最小単位が特定の感応基に偏よることなく、分子内の感応基間を互いに移動できること(分子内移動性)、 (3)分子間でホール状態を安定化する特異構造を形成しないこと、 が重要であるとの結論を得た。さらに、この概念の一般性を確認するため、現在実用有機感光体で広く用いられているヒドラゾン誘導体に適用して、その妥当性を示すことができた。また上記分子設計指針にもとづいて新たに合成したトリフェニルアミン誘導体において、70wt%の分散量で移動度、10^<-4>cm^2/Vsecを達成し、現在までに既報のキャリア輸送低分子化合物の中で少なくともベスト3に数えられ、実用可能な新規高キャリア輸送材料を開発することに成功した。
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