研究概要 |
パルス磁場勾配を印加したNMRスピンエコー減衰を正確に測定するには, パルス磁場勾配と静磁場との結合によって生ずる一時的な磁場の乱れが, FID信号の取り込み時まで残存していてはならない. この現象は, 装置特性に依存して生ずるため, 先ず購入した磁場コイル付属NMRプローブと現有設備であるFT-NMR分光計との整合性を検討した. すなわち, 信頼できる自己拡散定数(D)の報告値のある液体ベンゼンおよび液体シクロヘキサンについて, 第二の磁場勾配パルスを印加後FID信号取り込みまでの待ち時間を5msから45msまで系統的に変え, Dの値を求めたところ, いずれも待ち時間が25msより長い領域で正しい値を再現することがわかった. このような条件下に, 多孔質ガラス(コーニング製, #7930)に吸着したベンゼンおよびシクロヘキサンの測定を行ったところ, (1)吸着系では, いずれもが純液体に比べて小さなDの値をもつ. このことは, 分子・表面間のファンデルワールスカのために, 吸着分子の分子運動性が液体状態に比べてより束縛されていることを示唆する, (2)残留磁場がないにもかかわらず, 待ち時間を長くとるとDの値は小さくなった. 表面の不均一性のためにDの値に分布があり, エコー減衰の速い成分と遅い成分が観測されたためと考えられる, (3)純液体では, ベンゼンのDの値の方がシクロヘキサンのそれよりも大きいのに対して, 吸着系ではこの関係が逆転した. 飽和炭化水素であるシクロヘキサンに対して, π電子をもつベンゼンがガラス表面(シラノール基か)と吸引的相互作用をすることを推測させる. 興味深いことに, 銀イオン修飾多孔質ガラスは無修飾多孔質ガラスと同じD(ベンゼン)<D(シクロヘキサン)の序列であったが, 多孔性アルミナでは逆の序列となった. セラミックス多孔体上にある酸点の性質により, 有機分子の細孔内拡散運動性が制御されることを如実に示している.
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