1.沸点差の小さいベンゼンおよびシクロヘキサンの選択分離を念頭に、多孔質ガラス(コーニング製、#7930)に対する両基質の透過係数(Q)を測定した結果、(1)基質を単独で供給しても、混合物(モル比1:1)として供給しても、ベンゼンの透過性はシクロヘキサンのそれよりも高い(温度範囲30〜70°C)。 (2)温度を上げると、ベンゼンの透過性は顕著に低下するのに大して、シクロヘキサンではほとんど温度依存性がみられなかった。ベンゼンでは表面拡散が支配的であるのに対して、シクロヘキサンではクヌーセン拡散と表面拡散が拮抗していることを示唆する。 (3)多孔質ガラス膜細孔内に銀イオンを固定化したところ(1.65×10^<-5>mol/g)、ベンゼンのQは約1/2に低下したが、シクロヘキサンではほとんど変わらなかった。 2.一方、NMRパルス磁場勾配法により細孔内吸着種の自己拡散定数(D)を測定したところ、(1)吸着系では、いずれもが純液体に比べて小さなDの値をもつ。従って、吸着分子の運動性は、分子-表面間のファンデルワールス力により液体状態に比べてより束縛されていると考えられる。 (2)純液体では、ベンゼンのDの値の方がシクロヘキサンのそれよりも大きいのに対して、吸着系ではこの関係が逆転した。飽和炭化水素であるシクロヘキサンに対して、π電子をもつベンゼンがガラス表面と吸引的相互作用をすることを示唆する。 3.シクロヘキサンに比べてガラス表面との吸引的相互作用の大きいベンゼンでは、相対的に、(1)吸着相におけるDが小さい、 (2)膜透過作用状態での吸着両が大きい、の二つの特性をもつものと思われる。Q(ベンゼン)>Q(シクロヘキサン)の結果は、ベンゼンにおいてはDがやや小さいものの、膜透過に有効な表面拡散が優勢に起こったためと説明できよう。
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