レーザーは、単色性、強い光子場、超短パルス発振などの、通常光では得られない特徴を持った光源であり、これを連鎖反応の開始過程等に用いて反応を制御する試みは、合成化学や、化学反応の関与する種々の工学的プロセスにとって興味ある課題である。 本研究では第一年度に、メタンと一酸化二窒素の混合系にArFエキシマーレーザー光を照射することにより、メタンからメタノールの合成が、その収率は小さいものの可能であることを示した。本年度はさらに計算機シミュレーションの手法によって、上述の結果が妥当であることを示した。また色素レーザーを用いたレーザー誘起蛍光法によって、系中に、予想どおりOHラジカルが生成、存在していることを証明した。 酸化的な連鎖反応の一例として、予混合気の発火の過程がある。そこで今年度は、連鎖反応の制御の観点から、メタノール/空気の予混合気へのArFエキシマーレーザー光の照射による発火開始の可能性を、実験と計算機シミュレーションにより追跡した。実験には、小さな短型断面のバーナーからメタノール/空気の予混合気を噴出させたところへレーザー光を照射し、発火の有無を判定し、さらに発火に必要なレーザーフルーエンスを予混合気の当量比の関数として決定した。この必要フルーエンスは、当量比が1つの近傍で最小となり、当量比の増加に伴って上昇する傾向を有した。この傾向は、熱面発火など従来の発火における傾向とは異なった、レーザー発火の特徴である。さらに、多数の素反応からなる発火の化学反応モデルを用いて計算機シミュレーションを行った。この結果、上述のレーザー発火における傾向は、レーザー照射により、熱とラジカル種が同時に生成することによるものと判断された。このことは、レーザーを用いて発火の反応過程が制御できることを示している。
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