研究概要 |
各種の1ーシリルシクロプロピルリチウム誘導体(1)とジクロロメチルメチルエーテル(DCME)の反応により、対応するシクロプロピルシリルケトン(2)を比較的良好な収率で得た。本反応では、DCMEから生じたメトキシクロロカルベンが1と反応した後、シリル基が分子内的に1,2ー転位して2が生じたと考えた。本法は、その収率の面で改善の余地はあるが、潜在的に重要である。 2の炭素三員環がシリルカルボニル基によって強く活性化されていることを、各種酸との反応によって確かめた。ハロゲン酸との反応では三員環の開環が優先し、硫酸および関連酸との反応では環拡大が起こりジヒドロフラン誘導体が生じた。なお、2ーフェニルシクロプロピルシリルケトンと硫酸との反応では対応するシクロブタノンが高収率で得られた。 2とアルキリデンホスホランとのWittig反応は高立体選択的に進み、対応するZ+1ーシリルー1ーシクロプロピルアルケン(3)を95%以上の純度で生じた。この結果は2におけるシリル基のかさ高さによって説明される。3のプロトン酸による脱シリル化では炭素三員環の開裂が起こりやすく、対応する二置換アルケンへの変換は困難であった。しかし、Bu_4NFを用いると3は容易に脱シリルプロトン化され、対応するEーアルケンが定量的に得られた。 2とオキソスルホニウムメチリドとの反応では、対応するシロキシアルケンとβーケトシランが生じた。これら生成物の割合は、反応温度、溶媒の極性、硫黄イリドの調製によって異なる。特に、無塩型イリドでは前者が、有塩型イリドでは後者が選択的に生じた。これら両化合物の生成は、反応中間体でのシリル基の分子内1,2ー転位によって説明されるが、イリド溶液中に可溶性無機塩を共存させることによって、シリル基がアニオノトロピー(βーケトシランの生成)しうる状況を創出した点は合成化学的に大きな意義を持つと考えられる。
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