研究概要 |
62年度はインジゴ誘導体の光酸化還元系に重点をおき、光励起状態の性質と反応挙動に及ぼすN,N′ー置換基の効果について明らかにしたが、63年度ではこの成果を踏まえてポルフィリンの新規なN,N′ー架橋誘導体の合成とそれらの光酸化還元反応について検討を行った。まず、ポルフィリンにN,N′ー架橋基を導入する事によってポルフィリンの平面構造に歪を与えると還元体であるフロリンが容易に生成する事を見い出した。コバルトポルフィリンとアルキンから容易に得られるN,N′ーエテノ架橋オクタエチルポルフィリン過塩素酸塩は水素化ホウ素ナトリウムで速やかに還元されて、N,N′ーエテノ架橋ー5Hーフロリンを与える。この5Hーフロリンはエタノール中、酢酸の存在下で740nmに幅広い吸収帯を示すモノカチオンを生成し、20時間で空気酸化されて元のポルフィリンに戻るが、ベンゾキノンを加えると酸化反応は瞬時に完結した。次に、アルゴン雰囲気下でのベンジルによる酸化、即ち、ベンジルの還元は全く起こらなかったが、200Wのタングステンランプで光照射するとアセトニトリル中、トリフルオロ酢酸の存在下で酸化還元反応は30分で完結した。従来、αージカルボニル化合物はNADHモデル化合物である1,4ージヒドロピリジン誘導体による還元反応の基質として数多く研究されてきた。アセトニトリル中での還元電位で比較するとNーベンジルニコチン酸アミドの塩(BNA^+)は-1.0Vであるのに対し、N,N′ー(ジフェニルエテノ)オクタエチルポルフィリン過塩素酸塩ではー0.7Vであり、BNAHの還元力が高い。しかしながらBNAHは400nm付近の近赤外領域の光しか利用できないのに対して、本ポルフィリン系では600から700nmの可視光を有効に利用する事ができ、可視光による酸化還元系の開発と応用に大きく前進したと考えられる。
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