可視光を有効に利用できる合成反応の開発は太陽エネルギーの有効利用や反応の選択性向上の観点から注目されているが、その為には可視光による光エネルギー移動あるいは光電子移動を有効に行なう色素反応系を創出する必要がある。本研究では一般性があり広い応用が期待されている光電子移動型の酸化還元系の開発とその利用を目的としてインジゴ誘導体とポルフィリン誘導体をとり上げた。N、N'置換インジゴ誘導体は三級アミンの存在下で可視光照射すると光還元を受けるが、トランス型のN、N'-ジアセチルインジゴの場合は一重項励起状態に対する電子移動によって2電子還元体(ロイコ体)が生成するのに対し、シス型のインジゴでは三重項励起状態への系間交差が効率よく起こり、三重項ラジカル対を経て1電子還元体であるセミキノンラジカルが生成する事が明らかとなった。この結果を基にして合成したN、N'-オキサリルインジゴを2モル%含むトリブチルアミンのベンゼン溶液をタングステンランプで3時間光照射すると50%のトリブチルアミンが光脱アルキル化される事を見い出した。次に、N、N'-架橋基を導入してポルフィリン環に歪を与えるとπ電子共役系の切れた2電子還元体であるフロリンが容易に生成する事を見い出した。コバルトポルフィリンとアルキンと塩化第二鉄との反応によって容易に得られるN、N'-エテノ架橋オクタエチルポルフィリン過塩素塩は水素化ホウ素ナトリウムで速やかに還元されて、N、N'-エテノ架橋-5H-フロリンを与えた。この5H-フロリンはエタノール中、酢酸の存在下で20時間で空気酸化されて元のポリフィリンに戻った。アルゴン雰囲気下でのベンジルによる酸化、即ちベンジルの還元は全く起こらなかったが、トリフルオロ酢酸の存在下、アセトニトリル溶液中でタングステンランプで光照射すると酸化還元反応は30分で完結する事を見い出した。
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