本研究は酵素の触媒活性に迫る人工酵素の開発及び分子レベルでの立体識別反応機構を解明する目的で、種々の分子集合体反応場での光学活性触媒によるアミノ酸エステルの立体選択的加水分解反応を検討し、以下の4項目からなる成果を得た。まず第1の研究においては、光学活性触媒によるエステルの加水分解反応を界面活性剤ミセル、合成二分子膜、及びポリマーミセル存在下で比較検討し、これら分子集合体の反応性および立体選択性に及ぼす効果を明からにした。第2の研究においては、カチオン界面活性剤の存在下、種々のジペプチド触媒によるエステルの加水分解反応を検討し、触媒の構造と立体選択性の関係を考察した。また上記反応のアシル化・脱アシル化速度を求めるとともに、アシル中間体を分離し立体制御の機構を解明した。第3の研究においては、上記の触媒活性を含む官能基を水溶性高分子(ポリエチレンイミン)に結合させて、主鎖に直接結合した高分子触媒を合成し、機能性材料を開発する観点から、粘度、蛍光挙動、エステル加水分解反応などの測定を行なった。高分子触媒の反応性から、直鎖および分岐ポリエチレンイミン誘導体の立体選択性を比較検討した。さらに、これらポリマードメイン中でのジペプチド触媒による加水分解反応も合わせて検討し、基質の構造に及ぼす反応性と立体選択性の関係を考察した。第4の研究においては、アミノ酸基質の加水分解反応をハイブリッド分子集合体の構成分子の混合化を変化させ検討したところ、これらハイブリッド分子集合体は用いた触媒のコンホメーションを自在にコントロールでき、高立体選択性の発現を可能にすることがわかった。 以上のように、本研究は分子集合体触媒による立体選択的有機反応および機能性材料開発に関して、分子集合体の役割及び作用機構についての基礎的知見を得ることができた。
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