前年度の研究において、ポリペプチドのサーモトロピック・コレステリック液晶は、高分子液晶として多くの特異な構造・物性を有することが明らかにされた。中でもらせんピッチの著しい温度依存性は特筆すべきものである。本年度研究は、主にこの点に着目し、ポリペプチド分子の構造特性とコレステリックらせん構造特性との相関を明からにした。結果は以下のとうりである。 (1)ポリペプチドのコレステリック液晶のらせんねじれ角(1/P)の温度依存性は、式1/P=a{(T_N-b)/(T-b)-1}で表わすことができる。この温度依存性は、低温域で著しいねじれ角の温度変化が見られること、またT=T_Nでらせんセンスの逆転が起こるという二つのきわだった特徴を持つ。また、サーモトロピック、リオトロピック系を問わずこの特徴は共通に見られ、ポリペプチド分子の構造特性に由来するものであることがわかった。 (2)セルロース誘導体のコレステリック液晶でも、ポリペプチド系と同様のピッチの温度依存性が認められ、両者共通の分子構造特性、すなわち光学活性な剛直主鎖と屈曲性側鎖からなる二重構造がこの異常な温度依存性を誘起する要因の一つであることが推論された。 (3)光学活性な主鎖とそれをらせん状に取り囲む側鎖が、それぞれ独自に逆のセンスを持つらせん構造を誘起し、またそれぞれの温度依存性が異なるためらせんセンスの逆転が起こるものと考え、個々のねじれ角の温度依存性を分離観測する試みを行った。その結果、光学活性主鎖に由来するらせんはL対に対して左巻きであり、一方側鎖に由来するねじれは右巻きであることがわかった。また前者のねじれ角の温度変化は小さいのに対して、後者のねじれ角は温度とともに減衰することがわかり上述した温度依存性を定性的に説明できることがわかった。
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