サーモトロピック液晶性ポリペプチドの合成とコレステリック液晶の構造物性を調ベ、以下の諸点を明らかにした。 (1)リオトロピック液晶性ポリペプチドは適切な側鎖化学修飾をほどこすこと(分子内溶媒効果を生み出すべく十分に長い側鎖を結合すること)で、サーモトロピック液晶性ポリペプチドに変換し得る。 (2)液晶種はコレステリック液晶であり、そのらせんねじれ(1/P)の温度依存性は、経験式 1/P=a{(T_N-b)/(T-b)-1}に従う。この式は、低温域(T《T_N)でねじれ角の温度変化が著しいこと、またT=T_Nでらせんセンスの逆転がおこることを示し、主鎖とそれを取り囲む側鎖からなるポリペプチド特有の二重構造に由来する特性であることが認められた。 (3)コレステリック液晶のグランジャン単一ドメイン組織が簡単に調製でき、また、その構造を簡単に固定(ガラス)化できることがわかった。上述したように、らせんピッチは温度に対して著しく変化するため、いかなるピッチ長のコレステリックらせん構造も固定化が可能であり、らせん構造に由来する光学特性の幅広い応用が現実のものとなった。 (4)サーモトロピック液晶を形成するポリペプチドの発見は、広く天然に分布する棒状高分子のサーモトロピッ化を可能とする。実際、筆者らは、セルロース誘導体においても類似な化学修飾によりサーモトロピック液晶状態を発現させることに成功した。本研究は、天然高分子の利用に関する一分野を開発した点においても、重要な研究であったと言える。
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