本研究は、62年度に引き続きDNAとナトリウムイオン(Na^+)とのイオン結合に関する知見を音速度と密度から得られる断熱圧縮率から求めることにある。DNAのリン酸基とNa^+の相互作用をより明らかにするためにリン酸基のみからなるポリリン酸に対するNa^+のイオン結合度を音速度測定から求めた結果、そのイオン結合度は約0.25〜0.30となった。Na^+イオン電極を用いたNa^+のEMF測定から求められる活量の解析は、イオン結合度の上限と考えられるイオン雰囲気的なイオン結合度を与える。ポリリン酸ナトリウム溶液のNa^+の活量から得られたイオン結合度は、約0.3であった。音速度から得られたイオン結合度は高分子イオンの水和層に進入したNa^+の割合を与えることから、ポリリン酸では、イオン結合に関与するNa^+は大部分ポリリン酸の水和層を乱す程度まで近づいていることがわかった。また、DNAのNa^+の活量の測定から、イオン雰囲気的な結合が約0.3存在することが明らかとなった。昨年度得られたDNAにNa^+を加えた場合の溶液の音速度の結果は、水にNa^+を加えた場合と同様に塩濃度に対して直線的に変化することを示している。以上の結果は、DNAのリン酸基はアデニンなどの塩基に取り囲まれNa^+はDNAの水和層を乱すほど進入できないと考えられる。 今後の課題としてポリイオンと対イオンの相互作用をさらに詳しく検討するためには、高分子イオンの水和層を定量的に評価する必要がある。これまでカルボキシメチルセルロースなどの糖誘導体について水和量の置換度依存性を明らかにしてきた。DNAなどの生体高分子について同様の知見を得るためには、多量の試料が必要となるため現在の測定装置の改良も今後の課題である。
|