本研究は、光学異性体のクロマト分割における移動相として超臨界酸化炭素および液化プロパンを用いたときの分離特性を化学工学的に解明したものである。実験には不斉識別能のあるセルロース誘導体の担持カラムを、光学異性体にはトランススチルベンオキシドおよび1ー(9ーアンスリル)ー2、2、2ートリフルオロエタノールを用いた。得られた知見を以下にまとめる。 (1)液体ヘキサン、液化プロパン、超臨界二酸化炭素の順に光学異性体のカラム分離度が大きくなる。これは流体の拡散係数が大きくなるためと考えてよい。(2)容量化(保持時間)はどの溶媒についてもアルコールの添加によって大きく減少するが、超臨界流体では圧力の増加でも減少する。これは溶質の保持機構が溶質と溶媒の競争吸着によるものと考えれば説明できる。(3)光学異性体の分離係数は、容量比を変えても余り変化しないといえるが、移動相流体および添加アルコールの種類と濃度による変化は無視できない。分離係数に一番大きな影響を与えるのは温度であり、低温ほど分離係数が大きい。不斉識別が吸着相でのみ行われることを考えると、鏡像体の吸着安定性を決めるのは第1に溶質とポリマー間の相互作用、第2に吸着相内の溶質と溶媒間のファンデルワールス力である。(4)超臨界流体の圧力を増加させると鏡像体の分離係数は若干大きくなるが、これは吸着相のアルコール濃度が減少することを示している。(5)分子拡散と流体混合が支配的な低流速域では、ポリマーを担持したシリカゲルの方がシリカゲルだけよりも物質移動総括抵抗が若干小さいが、粒内拡散が支配的な高流速域では逆にポリマー担持カラムの総括抵抗が大きくなる。この理由としては、【○!1】ポリマーの担特による粒子内の屈曲度の増加、あるいは【○!2】粒子外に付着したポリマよる粒子の凝集、の二つが考えられる。ポリマー担持法に関する基礎研究がカラム性能の改善にとって必要であろう。
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