Nicotiana sylvestrisのトリゾーミックB220系統は花器の各部は全て正常2倍体より大きく、また葉長が有意に長かった。これはいうまでもなく余剰染色体の影響によるものである。草丈と葉数は2倍体とほぼ同じであった。またこのB220系統の余剰染色体は顕微鏡観察の結果、付随染色体であることが確認された。またこの余剰染色体は葯培養による花粉起源植物へ約50%の頻度で伝達し、減数分裂過程で消去さることなく、しかも半数性花粉と同等の分化全能性を示した。B220系統の発育の時期および開葯後、0、1、2、3日後の花粉を2倍体に人工受粉すると、花蕾長40-70mmの葯内に含まれる2核期初期の未熟花粉ても稔性ある種子が得られた。この未熟花粉10%の蔗糖を含む寒天培地で25℃の条件で発芽することから受精能力を持つことが明らかであった。しかし余剰染色体を持つ花粉の受精能力は極めて低かった。トリゾーミック個体の出現は花蕾長の増加と共に増加し、開葯1日後22.5%に達し、余剰染色体を持つ花粉は正常花粉に比較して発育が遅れ、開葯1日後に完熟するものと推定された。また30及び25μmのナイロンメッシュで花粉をふるい分けて小粒花粉を2倍体に受粉したところ51.9%および70.4%のトリゾーミック個体を得ることができ、トリゾーミック系統の種子生産にほぼ満足すべき結果を得ることができた。さらにB220トリゾーミック系統の葯に農業的有用な多面発現的遺伝子を含む染色体断片を転座固定する試みで0、1、3、6、kRのX線照射した。明らかに線量が増すほどに花粉起源の植物は減少し、6kRでは全く分化しなかった。また花粉の発育が進んでいるほどX線の花粉起源植物の分化への影響は小さかった。しかし、分化能力とX線による染色体異常との関係がパラレルであるとは認め難かった。顕微鏡観察の結果、X線照射により得られた染色体異常は染色体断片の出現のみで転座固定までは至らなかった。
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