研究概要 |
オオムギ(H.vulgare)とその野生種H.bulbosumの雑種では、H.bulbosumの染色体が選択的に消失する。細胞分裂前期における染色体動原体と紡錘系との相互作用の変化が、染色体の消失をもたらすと推定した。今年度、双子葉植物の染色原体を特異的に染色する熱SSC法(内海、1977)を改良し、動原体部の形態を比較することにより、染色体消失の原因を明らかにしようとした。 材料と方法:H.vulgare cv. Amsel(2x)とH.bulbosum(4x)間の3倍体雑種の根端分裂組織および穂原基(約5mm)と酢酸エタノール(3:1)に固定(3日、室温)し、これら分裂組織を0.2N HCl、60℃、45分処理した後、pectinase液(4.6units/mgProt.,13mgProt./ml)の50倍希釈液に30分処理した。水洗後、細胞を45%酢酸中で押しつぶし、ドライアイス法カバーグラスを除いた後、自然乾燥(overnight)し、2xSSC、85℃、90分処理し、水洗後、ギムザ液(メルク)(1/15M燐酸緩衝液(pH6.8)で50倍希釈)で染色(約60分)した。 結果と考察:オオムギ、H.bulbosum、あるいはこれらの雑種の染色体の動原体を染色するのは容易ではなかった。組織の固定時間(1日〜7日)、保存状態(室温、冷蔵庫)、2xSSCの処理時間(20〜120分)を変え、動原体が安定して染色される条件を捜したが確定できなかった。ただ、検討した中で上記の方法で、比較的よく動原体が分染された。分染された動原体は、染色分体上の動原体として2つの点として観察された。染色体消失の原因となっている分裂細胞の遅滞染色体を分染した場合、遅滞染色体の動原体部は、正常に分裂している染色体の動原体と同様に染色され、遅滞染色体の動原体は通常の動原体と違っていないように観察された。染色体消失は、動原体の構造異常であるよりも、動原体機能の異常と関係していると思われる。
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