オオムギとその野生種H.bulbosumの雑種では、H.bulbosumの染色体が特異的に消失する。この染色体消失は雑種の穂原基組織の細胞分裂において高頻度で生じるが、根端の分裂組織ではほとんど生じず、組織特異的である。消失する染色体は、細胞分裂中期に赤道板に集まれず、後期に遅滞染色体となって、娘核から除かれ消失する。この様に染色体消失は、特定の遺伝的背景の下で、細胞の生理的状態が染色体分裂に関わる機構を変化させて生じると思われる。62年度、オオムギ品種Amsel(ZX)、H.bulbosum(4X)とその3倍性雑種の根端に転写阻害剤Cordycepin(10^<-5>M)、翻訳阻害剤Cycloheximide(10^<-5>M)、紡錘糸形成阻害剤Colchicine(0.1%)を30分pulse処理し、RNA合成、蛋白合成、紡錘糸形成と細胞分裂における染色体消失の関係を明らかにしようとした。Cycloheximide処理では、雑種で処理開始後90分で遅滞染色体を持つ後期分裂の増加がみられた。Cordycepin処理でも雑種では、処理開始後、60分-90分で遅滞染色体うや持つ後期分裂の増加があった。Colchicine処理ではAmsel、bulbosumあるいは雑種でC-metaの増加に違いがみられず、遅滞染色体を持った後期分裂も観察されなかった。これらの結果は、細胞分裂前期におけるRNA合成、蛋白合成が染色体消失に関与している可能性を示した。 63年度、多子葉植物の染色体動原体を特異的に染色する熱SCC法(内海、1977)を改良し、動原体部の形態を比較することにより、染色体消失の原因を明らかにしようとした。 染色体消失の原因となっている分裂後期細胞の遅滞染色体を分染した場合、遅滞染色体の動原体部は、正常に分裂している染色体の動原体と同様に染色され、遅滞染色体の動原体は通常の動原体と違っていないように観察された。染色体消失は、動原体の構想異常であるよりも、動原体機能の異常と関係していると思われる。
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