近年、遺伝子像の動的側面が明らかになるにつれて、遺伝子の発現が多様な調節因子によって厳格に制御されていることが判ってきた。作物における遺伝的調節変異の意義を明らかにする目的で、モチ遺伝子の発現調節に係わる変異をとり上げ、その育種的意義を検討した。栽培イネ品種間には、胚乳澱粉のアミロース含量に関して、大きな変異が存在し、このアミロース含量はまた食味に関連する主要因の1つとして注目されてきた。最近になって、アミロース含量が従来からよく知られてきたモチ遺伝子の発現量と高い相関関係をもつことが判明し、その発現調節変異とアミロース含量との関連が注目されている。発現調節因子としてはモチ遺伝子近傍のシス位で作用する要因と、モチ遺伝子とは独立でトランス位で作用する要因の2つに大別され、両者はイネのアミロース変異を説明できる因子と考えられた。イネ系統間変異の中で、両者の重要度については不明の点が多かった。この点を厳密に検討する目的で、種々の系統から戻し交雑によってモチ遺伝子座近傍を含む染色体断片を単一の検定系統に導入して、遺伝子発現量を蛋白レベルで比較調査した。その結果、第1にシス位で作用する調節因子には少なくとも3種の異なった因子が存在すること、第2に異った因子は異なる遺伝子発現量を制御すること、第3にシス位で作用する因子は原系統にみられるモチ遺伝子発現量を反映することから、系統間変異の中でトランス位で働く因子の寄与は少ないことなどが判った。したがって、イネ系統間でみられるアミロース含量の変異を理解する上で、モチ遺伝子座近傍の因子を分子遺伝学的に解析することが重要であろうと考えられた。
|