栽培イネ品種間には胚乳澱粉のアミロ-ス含量に関して大きな変異が存在する。アミロ-ス含量は食味に関連する主要因の1つとして注目され、特に交雑育種においてはアミロ-ス含量の選抜が食味の悪化を防止するために必要となる。アミロ-ス含量の遺伝については、過去に多くの試験が行われ、その結果に基づいて量的形質として取り扱われてきた。著者は、育種上重要なアミロ-ス含量が主としてwx座の遺伝子発現の差異により生じることを提唱し、特にwx座における複対立遺伝子の分化が重要な役割りを演じていることを報告してきた。この仮説を証明するために、異なるアミロ-ス含量をもつ多数のイネ系統からwx座を単一の遺伝的背影下に戻し交雑によって導入することを長年にわたって行ってきた。本研究は、育成した合計17の準同質遺伝子系統を供試して、wx座の産物であるWx蛋白量とアミロ-ス含量を比較・検討した。その結果、イネ系統には遺伝子産物量の異なる少なくとも3種の異なった対立遺伝子が存在し、その産物量の差はアミロ-ス含量の差と対応していた。さらに、準同質遺伝子系統とそれらの原系流間にはアミロ-ス含量に大差はなかった。このことは、調査した系統では、アミロ-ス含量の差は主としてwx座の複対立遺伝子の分化によって説明できることを示している。 wx座の遺伝的調節機構を解明する目的で、低アミロ-ス誘発変異体における遺伝子発現を調査した。その結果、低アミロ-ス変異体ではいずれもWx蛋白量も低下しており、それらの変異遺伝子はトランス位で作用する調節遺伝子であることが推察された。しかしながら、低アミロ-ス遺伝子はモチ遺伝子座の複対立遺伝子であるWx^bには効果があるが、Wx^aに対しては効果がないことが明らかとなり、トランス位に作用する因子と複対立遺伝子間の相互作用は今後の新しい研究テ-マとして注目された。
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