省エネルギー栽培を最終の目的として、施肥量を減少させても収量の減少が小さい品種の特性について、根系形態の観点から検討した結果いくつかの品種特性が明らかになった。(1)栄養生長期における水稲根系形態には明確な品種間差異が認められた。この品種特性は地上部諸形質としては関係なく、かつ土壌温度の変化に対しても安定であるところから、品種としての遺伝的特性の可能性が高いと考えられる。農林3号は狭い角度で密な根系を形成し、陸羽132号は広い角度で疎な根系を形成することが特徴的に認められた。(2)根系に特徴のある品種間において正逆交雑を行いF_1種子を得、F_1水稲の根系形態について検討すると、F_1水稲の根系開度、根系占有面積は親の組合せの違いにより、+と-のF_1効果が認められた。F_1水稲の根系形態の遺伝性については、次年度後代検定を行って詳細に検討し、根系形態の遺伝性について明確にしたい。(3)栽培環境の違いによる根系形態の変異について、施肥法の違いによる視点から検討した。施肥法の違いによる品種間差は、根系開度については農林3号が一番小さく、次いでコシヒカリ、陸羽132号の順で大きかった。また、深層族肥区、表層施肥区(深水)の施肥法の違いによって、根系開度に有意差が認められ、いずれの品種においても深層施肥区で狭い角度の根系が形成されていた。(4)施肥量が減少しても収量の減少程度が小さい品種は、古い品種群にも多収穫の品種群にも存在するが、概して古い品種群に多い。これが根系形態の違いに起因しているのかどうかについては、今のところ判断が難しい。しかし、品種による根系形態の差異が遺伝的な現象である可能性が示唆され、施肥法の違いによっても根系形態が変化する事実が認められたところから、根系形態を遺伝的変異と環境変異とに分離できる日も遠くはないと考えられる。今後さらに検討を進めてゆく予定である。
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