食用ギクの組織培養による変異体の作出を目的とした研究を行う上で、茎及び葉の切片培養において再生率が低い問題がある。本研究ではこの再生率を向上するための基礎的実験、組織培養による変異体の獲得率を高めるため、突然変異誘起物質添加培地での培養条件の検討、並びに再生個体の変異体出現様相の調査、等を行った。得られた主要成果の要点は次の通りである。1.茎切片及び葉切片培養に適した培養条件の検討 供試材料の採取部位及び生理的エ-ジ;カルス形成及びシュ-トの分化様相は試料の採取部位と時期、生理的エ-ジ及び供試植物の草勢、等により異なった。葉切片の採取部位は展開葉(第4葉)の、葉脚に近い中肋を含む葉身が適した。2.供試材料の生育前歴の相違とカルス形成及び再生率に関する検討 挿し芽苗と茎頂培養由来植物、連作土壌と更新土壌由来植物をそれぞれ比較した結果、茎頂培養由来植物及び更新土壌由来植物が優れていた。葉切片培養における供試材料の黄化処理及び置床方法については、供試材料を5日間黄化処理し、葉切片の表を培地に接して置床した区が優れていた。3.葉切片培養の好適培地組成の検討 培養結果には品種間差異が大きく認められ、多数の品種に共通して好適な組成の培地は明らかにできなかった。4.水浸状幼植物の発生軽減を図る培養条件の検討 水浸状カルス片の培養でケイ皮酸の添加により水浸状化の回避作用が認められた。5.突然変異誘起物質PFP添加処理による染色体減数個体作出の検討 寒天培地での処理に比べ液体振とう培養法による処理が有効であり、PFPの処理強度(濃度、期間)と染色体減数との間に相関関係が認められた。6.再生個体の生態、形態及び細胞学的調査 再生個体では花弁数の増加、花弁の形状の変化、花芯の露出、花色の変化(桃色系品種)、開花期の遅延、分枝性の異常等が観察され、染色体数は親株に比べて1〜2本減少した個体があった。
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