ブドウの縮果病は生理障害であるとされているが、防除方法は明かでない。果ていや果粒の維管束が変性しているところから、維管束に極在する微生物による病害ではないかと考え、病理学的な検討を加えた。 1.走査電顕で罹病組織を観察すると、マイコプラズマ様微生物(MLO)程度の大きさの顆粒が篩部細胞及び置床後形成されたコロニ-中に認められた。透過電顕では変性したミトコンドリアと推察される像以外に微生物様像はみられなかった。樹液の遠沈画分には、明らかに膜をもった直径0.05〜0.2μmの球状体が認められた。しかし、これらの顆粒がMLOであると同定されるまでには至っていない。 2.既存樹の顆粒組織片をPD2培地に置床すると、罹病果、健全果を問わず高率にMLO様のコロニ-が形成されたが茎頂培養系樹の果粒では形成されなかった。コロニ-は継代培養ができず、透析膜を果して組織を対置しても拡大しなかった。固形培地からのMLO様顆粒の回収は困難であったが、液体培地からは遠心分離により回収され、軟化された顆粒汁液からも回収が可能であった。この顆粒には核酸の存在が確認された。 3.茎頂培養によって育成したブドウ樹を網温室中で栽培したところ、縮果障害は全く発生しなかった。既存樹の果房へスピラマイシンを処理すると有意ではなかったが縮果障害の発生を抑制する傾向が伺えた。一方、試験管内で培養苗の挿し穂基部にMLO様顆粒を接種すると、発根や生育が大きく抑制された。しかし、同苗や実生苗の茎に傷を付け接種したものでは何ら障害は現れなかった。外見的に健全と思われる果粒の横断面に接種した場合は褐変が著しく、判定が困難であった。既存樹上の果粒への接種した場合は、縮果障害が発生したが、率において対照区との間に有書な差がなく、病原性は弱いものと考えられた。
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