ヘテロシス育種によく利用されている細胞質雄性不稔性(CMS)の本体を分子レベルで解明するために、9種のCMSと関連した十字花科植物を材料として、CMSと細胞質ゲノムの変異との相関を制限酵素分析法により調べた。各材料の若い緑色の健全薬を採取して、緩衝液中で磨砕後、ショ糖密度勾配遠心法により精製クロロプラストを得た。DNaSe処理により共存する核-DNAを分解・除去して、プロテナーゼK処理によりクロロプラストを消化・分解して、クロロプラストDNACot-DNA)の水溶液を得た。これらのDNAは制限酵素による分解を受けなかったので、更にフナコシ薬品より市販されているGENECLEANキットを用いて精製した。DNAの変異は3種類の、認識部位の異なる制限酵素(HindIII、EcoR1、Sal1)により切断後、1%アガロース電気泳動法により総断片数と各断片の分子サイズを調べ、比較検討した。各材料から得たct-DNAのHindIIIとEcoR1による切断パターンは互いによく似ていたが、わずかな違いも認められた。特に、ダイコンとカブの種間の比較では明らかな差異が観察された。二倍体と四倍体、CMS種と正常種の比較ではほとんど違いがなかった。雑種植物であるRaphanobrasicaのそれはダイコンのct-DNAのものと酷似していた。以上のことから、ct-DNAではCMSと関連すると考えられる変異は見い出せなかった。9種類の同じ材料の主根から精製ミトコンドリアDNA(mt-DNA)を得た。昨年度は芽生えを用いたが、材料によっては多量の種子の確保が難しく、本年度は主根を用いた。しかしながら、主根のAgeによってmt-DNAの収量が大きく異なり、DNA濃度の薄いものは明瞭な結果が得られなかった。得られたものの間ではmt-DNAの変異はct-DNAより大きいことが認められ、そのことが、CMSと関連していることが予想された。
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