研究概要 |
1.ジュウモンジシダからイノデに食草転換が進行中の移行地帯では, 成虫の寄生植物選択性と幼虫の植物可食が急激に変化し, しかも両者の遺伝的基盤は異なり, それぞれ1〜少数の遺伝子座支配であることが示唆されたが, 電気泳動法による蛋白多型から遺伝子座数を推定する試みは現在のところ十分な結果が得られておらず, 継続実験により明確にする予定である. 2.ジュウモンジシダ生態種の雌とイノデ生態種の雄は交配可能であるが, その逆の組合わせは交配せず, 選択交尾機構の存在が示唆され, これがイノデ派生生態種の生殖隔離を促進する重要な生態的要因となる可能性がでてきた. 3.自然環境下におけるトガリシダハバチの生態種形成の実態を調査した結果, ジュウモンジシダ生態種からイノデ生態種が派生する同所的食草転換の移行地帯が, 本州紀伊半島および四国を東西に横ぎる形で, 約10kmの狭い帯状地帯として存在することを明らかにした. 4.同胞種トガリシダハバチとシシガシラハバチは, 本州低地では両種の発生期に半月以上の差があり, 成虫が混生することはないが, 緯度および高度が増すにつれて2両種の発生期は縮まり, 例えば, 兵庫県氷ノ山(1,200m附近), 滋賀県比良山(1,000m附近), 秋田県月山(700m附近)では, 一部発生期が重なり, そこでは2種の成虫が混生することを明らかにした. トガリシダハバチの幼虫はシシガシラを食べる能力があるが, 成虫はそれぞれの食草以外には産卵せず, 混生地域でも自然交雑はみられず, 両種間に完全な生殖隔離が確立していることを確認した.
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