1.ニホントガリシダハバチ Hemitaxonus japonicus complex の自然固体群において、ジュウモンジシダからイノデに同所的に食草転換をおこし、地理的隔離なしに新しい生態種(host race)が作り出されている事実を発見しているが、食草転換は本種の分布の南限近くの北緯34°附近を紀伊半島から九州を東西に横切る南北約10kmの狭い帯状地帯で広範囲に起こっていることをさらに明確にした。 2.本種の3生態種(ジュウモンジシダ生態種、イノデ生態種、シシガシラ生態種)の雌成虫は、それぞれの野外での寄主である植物のみを選択・産卵することを実験的に確かめていることから、雌は寄主植物の選択に際して、誘引化学物質を手がかりにしていることが考えられる。そこで植物の成分分析と生物検定を試みた結果、3生態種の雌は、それぞれの寄主植物を真空乾燥後、メチレンクロライドで抽出した分画に反応し、各雌は親油性の気発性の低いそれぞれ異なる物質に反応することを明らかにした。それぞれの物質の同定は来年度の課題である。 3.電気泳動法を用いて、3生態種間の幼虫の血液蛋白質の構成を比較した。血液の採取量や発現バンドの安定性から、材料には5令幼虫を用いるのが通常であることがわかった。比較の結果、3生態種のバンドには若干の差が見られ、外部形態に相違が見られない生態種間に、蛋白質レベルでは差が生じている可能性が示唆された。
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