1.ニホントガリシダハバチのジュウモンジシダ生態種とイノデ生態種の成虫の寄主選択に関与する誘引化学物質を明らかにするために、今年度は産卵適期のジュウモンジシダまたはイノデ各500gのメタノ-ル抽出液をさらにヘキサンで抽出後、各抽出液を薄層クロマトグラフィ-により分離した7画分に対するハバチ成虫の産卵行動の頻度を調べた。その結果、両生態種の雌は画分3および4に産卵行動を示したが、異なる生態種の食草からの抽出物質には誘引されなかった。両生態種の雌は、それぞれ構造が異なる、親油性で脂質に近い構造を持つ弱揮発性のにおい成分に特異的に反応している可能性が示唆されたが、物質の同定は今後の課題である。 2.ジュウモンジシダ生態種、イノデ生態種およびシシガシラ生態種の幼虫の体液を用いて、アクリルアミド電気泳動により総蛋白および3種の酵素活性の比較を行って。、3者間の遺伝的変異性を調べた。蛋白は生態種間で若干の差異がみられ、シシガシラ生態種が他の2生態種に比べてその差異が大きいことが明らかになった。酵素活性の比較においては、MDHとMEでは生態種間に差はなかったが、エステラ-ゼでは変異性があり、特にジュウモンジシダ生態種とイノデ生態種の間には1本の特異なバンドの有無に差がみられた。 3.ジュウモンジシダ生態種とイノデ生態種との交配実験により、両者間に選択交尾の現象が存在し、ジュウモンジシダ生態種からイノデ生態種への遺伝子流入を阻止する仕組みのあることが明らかになった。このことは、選択交尾が派生生態種の遺伝的独立性を保証する有効な生殖隔離機構の役割を担っていることを示唆している。なお、選択交尾には性フェロモンの構造変化が関係している可能性を実験的に調べているが、物質の同定並びに選択交尾の形成機構の解明は今後の課題である。
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