1。ニホントガリシダハバチが分布の南限付近で、食草転換をともなって、地理的隔離なしに新しい生態種形成を進めている事実を突き止めた。これは、野外で実際に同所的に生態種が形成されている現象をとらえた最初の例である。 2。紀伊半島では北緯33°40'付近の南北約10kmの帯状地帯で、成虫の寄主選択性と幼虫の可食性が著しく変化しており、生態種形成が進行中である。それより南ではジュウモンジシダとイノデを共に利用している寡食性個体群として分布するが、それより北では、それぞれの植物のみを寄主とする2つの生態種に分化しており、同所下で交雑することなく共存している。 3。草食転換の主要因である成虫の寄主選択性は、1遺伝子座の対立形質支配である可能性が強く、ジュウモンジシダ選択遺伝子Aに対し、イノデ選択遺伝子A'が突然変異として生じた結果、分断選択によりジュウモンジシダ生態種からイノデ生態種が派生したと考えられる。幼虫の可食性の変化は条件づけ効果による可能性が強い。すなわち、イノデ生態種の幼虫がジュウモンジシダを食べなくなるのは、雌成虫が何世代にもわたってイノデに産卵を続ける結果、幼虫の不食化が次第に進むと考えられる。 4。食草転換をともなう新しい生態種の同所的形成の成立には、3つの隔離機構が働き合っていることを明らかにした。成虫の寄主選択が1遺伝子座支配であることによる分断選択と、交尾が食草上で起こることによる同族交配は前交配隔離機構として働き、生態種間の選択交尾は派生生態種の遺伝的独立性を強める後交配隔離機構として作用している。 5。成虫の寄主選択に関与する誘引化学物質および選択交尾に関与する性フェロモンの分離と同定は今後の課題である。
|