Mycosphaerella属植物病原菌から特異性決定因子の分離とそれらの作用機作に関する研究を行った。エンドウ褐紋病菌柄胞子発芽液の高分子分画にはエンドウにphytoalexin(PA)であるpisatinとinfection inhibitor(感染阻害因子)の生成を誘導する多糖elicitor(誘発物質)の存在することが判明した。本elicitorで処理された無傷エンドウ組織には同菌の感染は著しく阻害され、未同定の感染阻害因子の生成が認められた。一方、加傷したエンドウ組織を同elicitorで処理すると9時間でpisatin蓄積が、3時間以内にpisatin生合成の律速酵素の一つであるphenylalanine ammonia-lyase(PAL)の活性増加が、また処理後1時間以内にPALやchalcone synthase(CHS)遺伝子の転写の増高が認められた。以上の様に、病原菌といえども発芽・感染の過程において宿主の抵抗性を誘発する物質を分秘している。しかし、本菌の発芽液には上記二型の抵抗反応の発現を抑制する因子(Suppressor)の存在が明らかとなった。宿主エンドウに毒性を示す代謝産物は見いだせなかったが、低分子画分(MW.<2x10^4)から(1)感染誘導(2)pisatinの生産抑制を指標に検索した結果、ペプチドと糖を含む2成分が認められた。本因子の情報定達系への作用については未詳詳であるが、エンドウ原形質膜ATPaseの活性を顕著に阻害した以上の結果から、病原菌は宿主のhomeostasisや基礎的なエネルギ-生産に関わる基本的な代謝系を阻害する代謝産物を感染初期に分秘し、宿主の抵抗反応の発現を抑制して感染に成功するのではないかと思われる褐紋病菌のsuppressor(F5)の作用特異性は褐紋病菌の宿主範囲と一致しており本菌のエンドウへの感染立に必須の因子、即ち特異性決定因子であることが示唆された。一方、キク花腐病菌・ウリ類蔓枯病菌の柄胞子発芽液の低分子画分にもそれぞれの宿主を感受化する因子の存在が判明した(糖ペプチド、MW.3-6x10^3)。精製と構造決定を急いでいる。
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